スイートペットライフ
「オミ君……、行かないと。離して」

そう言って胸を押し返そうとするけど、強い力がでない。

この腕の中で、大倉さんの匂いを嗅ぐのもきっと最後になるだろうことちゃんと自分で分かってるから。

「離さない……。離せないんだ!」

そう言うと回されていた腕がきつくなった。

どういう気持ちで発した言葉なんだろう。勇気がなくて聞けない。

「ごめんなさい。でももう行かなきゃ。これが私なの」

大倉さんの腕の中で顔をあげて頑張って笑顔を向ける。

「ミィ……」

そう呟いた大倉さんの顔は悲しいような苦しい様な色んな感情がまざった顔をしていた。

頑張って作った私の笑顔もきっと同じような感情が含まれているんだろうな。

そういって彼の腕から抜け出し、荷物を持って社長室の出口にむかった。

「お世話になりました」

出口で頭を下げる。顔をあげたけど大倉さんは手をスーツのポケットに入れたまま窓の外を眺めているようだった。振り返らなくていい。そのままで……。

バタンとドアの閉まる音がして、大倉さんと私のご主人様とペットの暮らしが終わった。
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