スイートペットライフ
どんなに心が落ち込んでいても、日常は以前と変わらずに過ぎて行く。
でも私と言えば――今までだって恋だと思っていたものが終わったことが何度かあったが、それと全く違う感情に支配されてボーっとしたり涙ぐんだり。
到底以前の自分と同じだとは言えない。
前に大倉さんが家出した時と同じようにこの部屋に彼を探してしまう。あの時は戻ってきてくれるのが当たり前だったのに、今回は戻らないのが当たり前なのだ。
早くここを出ないと心がどんどん擦り減っていく。
大倉さんといえば、あの日の翌日荷物を真田さんが取りに来た。私も真田さんも特に大倉さんのことには触れずに荷造りをする真田さんを私はただ見つめていた。
彼自身にはあれから一度も会っていない。
***
「美空~マサキ美容室の先月の試算表出せる?」
「伝票入力してあるんで大丈夫です」
パスワードを解除してデータを呼び出しプリントアウトする。
プリンターまで試算表を取りに行くと諏訪君のデスクが目に入った。
休暇中に彼も私に連絡してくれていたうちの一人だ。
休暇明けの今日会社のパソコンに朝出社するとすぐにメールが届いた。
【この間のことごめん。許してほしいとは言わないけどきちんと謝らせてほしい。今日仕事の後少しつきあってくれる?】
メールを確認した後、諏訪君のほうを見るとバツが悪そうにこちらを見ていた。
そんな諏訪君に向かって人差し指と親指でOKのマークを作って見せる。彼だけが悪いんじゃない。少しでも明るくしないと。一つずつ一つずつ前に進まないと。