スイートペットライフ
大きな会社の家族ならば今の時代でも政略結婚もあるのだろう。だけど大倉さんがそんな結婚をさせられたことが何だかとても悔しかった。

「大倉さんはそんな風な結婚をしたらダメな人です。もっと温かくて思いやりがあってそういう人なんです!」

こんなところで楓さん相手に話をしても仕方ないことだ。だけどどうしてもあふれ出した感情を抑えることができなかった。

「彼は温かい家庭の真ん中で笑顔でいないといけないんです」

悔しくて拳を握りしめる。

「そうね、私もそう思うわ。そして私では彼にその家庭を作ってあげることができなかった。私の我儘のためにね」

顔をあげて楓さんを見ると、切ない笑顔を浮かべていた。

「私彼にはとても感謝しているわ。あの時結婚していなかったら父が心血注いで作った会社はつぶれていただろうし、妻としての役目を一切果たさずに我儘放題な私を許してくれていた。彼がいなければ今の私はないもの」

紅茶のカップを両手で包み中身を眺めながら話を進める。

「だから、彼には次こそは幸せになってほしいの。これが本心からの私の願いよ」

そう言ってカップを置くと私をまっすぐに見た。

「それをどうして私に?」

わざわざ私に話すようなことだろうか。

「さぁ、どうしてかしらね。自分で考えてみてちょうだい。それに――」

「それに?」

「これが私にできる大倉への最後のプレゼントだと思うから」

にっこりとほほ笑んで席を立つ楓さん。

「あの……」

思わず引きとめようとした私に楓さんは言った。

「私これからニューヨークに戻らないと、これでも社長よ。忙しいの」

にっこり笑うとヒールをカツカツと鳴らして出て行った。

私はぼーっと窓越しにテラス席の向こうで高級車に乗り込む楓さんを見ていた。

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