スイートペットライフ
私が自分の中の記憶をたどっていると奥さんがよこから話してくれた。

「大倉さんね、あなたが来て帰っていくのを楽しみにしてたみたい。本人は意識していないと思うけど美空ちゃんがここにいるときは本当に穏やかな顔になるのよ」

その時のことを思い出したのか奥さんがふわりと笑う。

「だからね、そんな大倉さんが美空ちゃん一人だけをそんなに傷つけるなんて私は到底思えないの。だからきっと美空ちゃんが傷ついている分大倉さんも傷ついているはずだわ」

そう言いながら私の頭を撫でてくれた。

「そうでしょうか?彼が求めている私達の関係と私が求めている二人の関係とが違う気がして……」

「それは大倉さんに聞いてみないと。でもお互いが必要としているならどんな関係でも一緒にいていいんじゃないかしら?私みたいなおばちゃんから言わせれば理由や関係なんてどうでもいいことのように思えるけど」

もう一度頭を撫でてくれる。

「そろそろ仕事に戻るわね」

そう言って奥さんはカウンターの中へ消えて行った。

二人の女性から大倉さんについて知らされた新たな事実。

でもどうして大倉さんはその事実を私には話してくれないの?それはもう二人の関係が完全に切れてしまったということなの?

二人の間に大きな壁があることを悟った。

その壁は私に越えられるのかな?それともこのまま壁の前でうずくまっていないといけないのかな。

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