スイートペットライフ
「さぁ、おなかすいたね何か食べよう」

そう言って大倉さんはスーツを脱ぎネクタイをはずしていつものギャルソンエプロンを部屋から取ってきた。それをつけて腕まくりをして冷蔵庫をのぞいた。

「ちゃんと料理してたんだね」

そう言って私を振り返った。

「なんとなく、オミ君がキッチンに立ってたのを思い出して……」

「ん~いい子だね~」

そう言いながら適当に冷蔵庫から食材を出して夕食の準備をしはじめた。

私はカウンターの椅子に座って大倉さんがパスタをゆでているのを眺めていた。湯気越しに見る大倉さんは以前とどこも変わらない。まるで離れていた時間がなかったかのようだ。

しかし……。“僕の初恋をかなえてくれる?”なんて聞くから二人になったらもっとその、あのラブラブというかいちゃこらというかそう言う雰囲気になるかと思ってたのに、いつも通りに食事の準備が始まったから、残念なような安心したような。

―――複雑

色々と考えていると大倉さんに呼ばれた。

「これ出来たから運んで」

そう言われて私に渡されたのは出汁巻き卵だった。

「これって、今日はパスタですよね?」

「そうだけどこれがないと始まらないでしょ?僕たち」

そうにっこりとほほ笑まれる。

久しぶりの大倉さんの料理はおいしくて、キノコとツナの和風パスタを私はペロリと食べた。出汁巻き卵も口いっぱいに頬張る。

「どんなに頑張っても、この味だせなかったんです」

そう大倉さんに言うと「あたりまえだよ。愛情たっぷりだから」と恥ずかしくなるようなセリフを言われて危うくのどにつまらせるところだった。

食事を終わらせるといつものように片付けをする。お皿を拭きながら隣にいる大倉さんをみる。

昨日まで広くて寂しいだけの空間だったのにこの人がここにただ立っているだけで愛おしい空間になるなんて不思議。

そんなことを思ってると「なに?」と見つめ返されてあわてて目をそらした。
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