スイートペットライフ
「ありがとう」

自然に言葉が出た。横にいた大倉さんは少し恥ずかしそうに指で鼻をかいて「ここまで話すつもりなかったのにな」と呟いた。

そしてもう一つ聞きたかったことを聞こうと大倉さんを見つめた。

「あと楓さんのことですけど、先日私を訪ねて来てくれて全部話をしてくれました」

「そうか、じゃあ大まかな話は知ってるんだね」

「はい。でもどうして結婚していることも離婚したことも話してくれなかったんですか?」

大倉さんは少し困ったような顔をした。

「だって結婚してるなんて言ったらミィはすぐにここから出て行くだろう?言えないよ。離婚のことは……怖かったから」

「怖い?」

「また話が長くなるけど聞いてくれる?」

コクンと頷くと私の手をギュッと握ってきた。

「さっき母親の話はしたよね?あんな母親を見ていたから恋愛に溺れるのが怖かったんだ。だから誰かと付き合うことがあってもどこかうわべだけで、この人もいつか僕から離れて行くとか考えてそのうち特定の人と付き合うことすらしなくなっていたんだ」

この部屋に乗り込んできた女の人を思い出す。

「学生の時は僕の容姿だけみて好きといわれ、伯父に引き取られてからは大倉建設の看板も手伝って色んな人が寄って来た。だけどみんなどこか打算的でもう自分にはそういう人しかよってこないんだと思ってた。だから楓との結婚も受け入れた」

大倉さんは私の右手を両手で包みこみながら話を続けた。

「前に“恋愛なんて不確かなもの”って言ったことがあるの覚えてる?当時そう思っていたから夫婦になればそんな心配いらないんだって思ってたけど違った。

彼女は会社の支援を条件に僕と結婚しただけだった。また大倉の看板か……と。

僕はまともな恋愛はおろか、結婚さえもまともにできないんだと感じたよ。このことでますます意固地になった気がする」
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