スイートペットライフ
そして私は今のマンションを出るタイムリミットの土曜日にこの部屋に引っ越してくることにした。

あと一週間であの部屋を明け渡せるようにしなくてはならない。

きっとママは韓国から電話一本で

「美空ちゃんお願いね~」


と言ってすませるつもりだ。
一週間どうにか荷物をまとめないと…。


ブツブツと一人で今後の予定について脳内会議を行っていると

「ぷっ」

と大倉さんが噴き出す声がした。

不思議に思って大倉さんをみると、笑いをこらえて肩を震わせている。

ん?デジャヴ?どこかでこの光景見た気がする。

どこだろう?

「さぁ、さぁ、早く帰って引越しの準備しないと一週間しかないんでしょ?乗り掛かった船だから、マンションまで送ってあげるよ」

「じゃぁ、お言葉に甘えて。お願いします」

電車賃だけでも節約したい。今はこの申し出をありがたく受けよう。

「大倉です。車エントランスにお願いします」

電話を取ると、そう伝えて玄関へと促された。

さぁ、忙しくなる。

だけど、どうにかこうにか生きて行く目途がたった。

こういう不測の事態に陥ると、私はいつも長いものに巻かれて、濁流に飲み込まれながらも息継ぎだけがんばって今日まで生きて来た。

だから今回だって大丈夫。きっと大丈夫―――。

そう思えたのは、引越しが完了するまでの短い間だけだった。
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