スイートペットライフ
すると、目の前には大倉さんがしゃがみこんでその大きな骨ばった手で私の両頬を包み込んでいた。

「なんか、色々大丈夫?」

「ぎゃわー!だ、だ、大丈夫じゃないー!」

あわてて手を振りほどいて、契約書を再度見る。

できることから一歩ずつだ。焦るな私。

じっくり契約書をみてみるが、どう頑張っても私が大倉さんの【ペット】になる契約書だ。

「こ、こんなのおかしいです。無効です!だって」

「ん?何がだって?」

大倉さんの笑顔の中に何か黒いものが混ざった気がした。

「だって、人間がペットだなんて…」

「人間を飼ったらいけないなんて法律あったけ?それにこれは合意の上だし」

そういって私がサインした部分を指差す。

「だってですね、人間は最低限の文化的な生活を送る権利がですね、憲法でですね…」

「そうだね、だからここにいれば‘最高級’の文化的な生活が送れるから心配ないね。

それに、ここを出てどうするの?その歳でホームレスはキツイよ。それこそ文化的な生活とは思えないけど」

「……」

そうだった、私には住む場所もそれを準備するお金もなかった。

言葉を詰まらせた私に

「これからよろしく。君は今から僕の大事な家族だから」

そう言って、私の頭を引き寄せて胸にだきしめた。

「家族…」

何故だか彼の紡いだその単語の優しさが胸にストンを落ちて来た。

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