スイートペットライフ
「―――三橋興産ですか?」

「そう、そこでね経理の担当者が新しくかわったから、ソフトの使い方とか伝票の入力の仕方とかをレクチャーしてほしいって依頼があってね」

「でも何でわざわざ青木に?」

諏訪君と所長が一斉に私を見る。

「いや、私に聞かれても分かりませんよ」

三橋興産は古くからのお客様で、すでにうちの事務所とのデーターなどのやり取りについてはシステム化されており、いくら担当者が新しくなったからと言っても全員が代るわけではないから、今さら何を教えたらいいのだろう。

「それが、経理課の課長を社長の息子さんがするみたいでね、システムとかを理解したいみたいなんだよね」

所長はサスペンダーをはじきそれが大きな狸のようなおなかに当たってペチンペチンと音を立てる。

「青木さん、こないだ三橋興産に行った?」

所長がいきなり尋ねてくる。

「はい、お遣いにいきましたけど……」

「だからかな?今回はどうしても青木さんにってたっての希望なんだよ。悪いけどお願いできるかな?」

そう所長に頼まれて断る理由などない。

「はい、分かりました」

そう答えた途端隣から諏訪君が急に話し始めた。

「納得できません。どうして青木さんなんですか、レクチャーなら僕でもできますし……」

いきなり食い下がったので驚いた。どうしたんだろう?

「まぁ、まぁ、今回は青木さんに行ってもらって、その間に諏訪君は別のお仕事ができるでしょ?ね、諏・訪・せ・ん・せ・い」

所長は優しい笑顔でそう言ったが、そこには有無を言わせぬ迫力があった。

「分かりました」

諏訪君は小さな声で返事をしてその場を離れた。

「失礼します」

所長に一礼して諏訪君の後を追った。
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