Esperanto〜偽りの自由〜
幻夢


茹だるように熱い日、薺(なずな)はいつもの如く縁側の縁に腰掛けていた。


「……」


何処を見るでもなく虚空を見詰め、小さくため息を吐く。すると、遠くに人影が見えた。人影は見る間に小さくなり、やがて姿を消した。


薺は身を乗り出して一部始終を見ていたが、人影が消えると興味をなくしたように再び虚空を見上げた。



「お姉ちゃん」



不意に、薺ではない少女の声が背後から響いた。ゆっくりと振り返りそちらに視線を向けると、純白のワンピースに身を包んだまだあどけなさの残る少女と目が合う。


「えへへ、見つけた」


「……菘(すずな)」


少女は此方に近付くと、頬に口付けを落とした。


「探したよ、お姉ちゃん」


「うん」


「ずっと此処にいたの」


「うん」


他愛ない会話を続け、再び黙り込む。暫くの沈黙のあと菘が口を開いた。


「お姉ちゃん」


「何」


菘は少し逡巡するように視線を彷徨わせ、やがて意を決し薺を見た。薺はその真摯な眼差しに射抜かれ目を逸らす隙を無くす。その一瞬の隙に、何か温かいものが唇に触れた。お互いの感触を確かめるような口付けはだんだんと薺の口腔を侵食し始め、薺は息をするのが苦しくなった。


「お姉ちゃん、アイツのところに行くの」


「……誰」


菘は答えず、再び口付けた。


「いや、嫌だよお姉ちゃん。アイツのところに行かないで、ひとりにしないで」


縋るように首にすりつき首筋にも口付けをする菘。


(……junk・・・quote……zephyr…………)


薺はされるがままにされ、菘のワンピースの中に手をくぐした。薄い肌をなぞり、脇腹を擽ると身を反らせる菘に、更に追い打ちをかけるようにして首筋を噛む。


「私もしたい」


身を乗り出し耳朶を甘噛みする菘に、薺は身を竦め指を突起にかけた。


「……するの」

「・・・して欲しいなら、言えば」

しばし見詰め合い、沈黙が訪れる。薺は突起から手を離し、唇に軽く触れた。


「冗談。・・・さ、あっち行って」

片手で菘を払うと、菘は気にした風もなく何処かへ去った。


「……」


再び縁側に腰掛け、何処ともなく虚空を見上げる薺。


薺が次に菘を見たのは辺りが既に暗く、体が冷え込んでからだった。


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