Esperanto〜偽りの自由〜
目が覚めたら、薺は見たことのない丘陵にいた。辺りを見回すと自分の影以外にはなにも無く、いいようのない不安と恐怖に襲われる。
(・・・junk……quote・・・zephyr…………Austin……)
何処からともなく雑音《ノイズ》が聞こえ、やがて途切れた。
「・・・やぁ、漸くお目覚め」
いつからそこにいたのか、突然黒い影が表れた。
「あはっ、そんなに構えないで欲しいな」
その影は段々と薺に近付き、やがて目の前で止まった。目の前に来られて初めてわかったが、影はとても華奢でどうやら少女らしい。
「……まだ、思い出せない」
「・・・え・・・」
「まぁいいや、そんなすぐに思い出されるのもつまらないし」
影の少女はひとり頷くと突然薺を抱き寄せた。薺はあまりにも突然のことに驚き、回避することが出来なかった。ようやっと回避行動を取ろうとしたが時既に遅く、少女は薺の唇に唇を重ねた。
「……予定変更、やっぱりすぐにでも思い出して貰うよ」
少女が何を言っているのか全然わからない。薺は抗議の声を上げようとしたが、再び唇を塞がれ何も言うことが出来なかった。
「あは、やっぱりキミはキミの儘だね。・・・全然、変わらない」
頬にも口付けをされ、体が震える。
「『今』わからなくても『後で』わかるよ。…………芹(せり)、それがわたしの名前だ」
少女は耳元で囁くとゆっくりと離れ、やがて姿を消す。
意識は、そこで途切れた。