Esperanto〜偽りの自由〜


目が覚めたら、薺は見たことのない丘陵にいた。辺りを見回すと自分の影以外にはなにも無く、いいようのない不安と恐怖に襲われる。


(・・・junk……quote・・・zephyr…………Austin……)


何処からともなく雑音《ノイズ》が聞こえ、やがて途切れた。


「・・・やぁ、漸くお目覚め」


いつからそこにいたのか、突然黒い影が表れた。


「あはっ、そんなに構えないで欲しいな」


その影は段々と薺に近付き、やがて目の前で止まった。目の前に来られて初めてわかったが、影はとても華奢でどうやら少女らしい。


「……まだ、思い出せない」

「・・・え・・・」


「まぁいいや、そんなすぐに思い出されるのもつまらないし」


影の少女はひとり頷くと突然薺を抱き寄せた。薺はあまりにも突然のことに驚き、回避することが出来なかった。ようやっと回避行動を取ろうとしたが時既に遅く、少女は薺の唇に唇を重ねた。


「……予定変更、やっぱりすぐにでも思い出して貰うよ」


少女が何を言っているのか全然わからない。薺は抗議の声を上げようとしたが、再び唇を塞がれ何も言うことが出来なかった。


「あは、やっぱりキミはキミの儘だね。・・・全然、変わらない」


頬にも口付けをされ、体が震える。


「『今』わからなくても『後で』わかるよ。…………芹(せり)、それがわたしの名前だ」


少女は耳元で囁くとゆっくりと離れ、やがて姿を消す。


意識は、そこで途切れた。


< 2 / 7 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop