Esperanto〜偽りの自由〜


「……なんなの……」


廊下から聞こえる話し声で目を覚ました菘はその話し声の主を見て憎々しく呟いた。


「なんで、……なんでアイツが・・・っ」


廊下の人物達には聞こえないよう声を殺し、片方を睨み付ける。


「ねぇ、早く思い出してよ」


睨み付けている方が言葉を発し、もう片方は呆然とした様子で佇んでいる。その様子はとても奇妙でまるで人形のようだった。



「・・・ねぇ、何してるの」



意を決し、感情を押し殺した声を掛けると人形のように佇んでいた少女、薺の肩がびくりと跳ねた。


「・・・やぁ、ク……菘。いたんだ」


睨み付けていた少女、芹は戯けるように手を広げると再び薺の方を向いた。


「……待っててね、今思い出させるから」


「・・・っ、……なんで勝手なことするのっ」


菘は激昂すると今にも掴み掛からんばかりに芹に近付いた。だが、あと少しのところで何者かに止められてしまった。


「・・・薺・・・」


「お姉ちゃん……」


数秒遅れて声がハミングし顔を見合わせる。菘を止めた人物、薺は真っ直ぐにふたりを見詰めるとやがて悟ったように言った。


「・・・いいよ、もう。止めよう」


その瞳にはなんの感情も映っていなかった。


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