無垢・Age17
 勿論、田舎でも就活はしていた。
でも私を受け入れてくれる奇特な会社は無かった。

みんな何故だか、勿体振ったような態度だった。
その原因が何なのか解らない。
私はそれも調べず、知らされないまま東京に逃げて来ただけだったのかも知れない。


東京が恐ろしい場所だと言うことは、さっきのハプニングで解った。

アイツがバイクで駆け付けてくれなかったら……

そう思うと怖くて堪らない。




 兄貴は橘遙さんのファンだと言った。
AVも仕事なの?
仕事だって割り切れば何だって出来るの?

あんな厭らしい目をした俳優陣を相手に……


ふと、アイツのことが気になった。
アイツも出来るの?
愛してもいない客に対して、愛の言葉を囁けるの?


それでも私はアイツを信じたい。
アイツの出かける前の言葉を信じたい。

アイツは話してくれたんだ。
ホストになった経緯や意気込みを。

きっと、私を安心させるためだったんだな。




 ホスト。
それはアイツが望んだ世界。
育ててくれた親への感謝を忘れた訳ではない。

でも生まれついての美貌を放っておく手はない、とスカウトの人に言われたらしい。
だから、自分を磨いて賭けに出たそうだ。


精一杯のおもてなしに客は喜び、多額の報酬をくれる。

でも、だからと言って誰彼構わずふんだくる訳ではない。

心のこもった接客に対するご褒美さえも拒否をする。
だから規定以外は頂戴しないのだ。
その誠実さがうけて、いつの間にかナンバーワンと呼ばれるようになったのだ。


元々其処お堅いホストクラブで通っていたらしい。

女性の心を揉みほぐし、明日を迎えるための栄気を与える。
それがコンセプトのようだ。


お客様とのトラブルは禁物で、ナンバーワンだからと言っても直ぐ蹴落とされるシビアな世界らしい。

アイツがナンバーワンになれたのも、でっち上げられたスキャンダルで前任者が退店したからだった。


だからこそ身をキレイにしておかなくてはいけないそうだ。




 「その人はホストに人生を賭けたような人だった。そんな人まで一つの躓きが命取りになる。だから怖い……。でもだからこそ遣り甲斐もあるんだ」

アイツはそう言いながら、もう一着のピエロの衣装に袖を通していた。





< 15 / 122 >

この作品をシェア

pagetop