無垢・Age17
 それでも免許の一番簡単な取り方はクラスメートに教えてもらっていた。

それはマニュアルではなく、オートマ限定で申込むことだった。
マニュアル車は操作が難しいけどオートマチック車は簡単らしいのだ。

まずオートマで取って、後で限定解除すれば良いらしい。

教習所によって料金は違うらしいが、技能講習数時間とか言っていた。




 確かに私に免許があれば母は楽になるだろう。
でも私はまだ十七歳であることを言い訳にして、免許を取らなかったのだ。


本当は金を掛けたくなかったのだ。

兄貴が卒業して、彼女と結婚するまでは。


そう母は、それを楽しみにしていたのだ。
だから、私を東京へ送り出してくれたのだった。

でもそんなこと母に言えない。
だから、東京に行けば免許は要らないと言っていたのだった。




 東京……
思い出す度に身体が疼く。
胸が痛い。

あの悪夢からは逃れられそうもない。


解っている。
そんなこと全部承知だ。

でももし其処の入社試験に落ちたなら、私は彼処で生きて行くしかないのだ。
母と二人で……


だから……
最後の賭けに頼るしかなかったのだ。





 その会社は僅かに残った自動車の部品工場だった。
今やどのメーカーでもエコカーが主流だ。
その一番大切な部分……
クリーンエンジンの部品を作っている工場だった。


この工場の製品が何処のどの部分なのかは知らないけど、排気ガスをキレイにするためにはなくてはならない物のようだ。

だから、厳しい生存競争の中でも生き残れた訳なのだ。


「御社のクリーンエンジンの部品作りに貢献したいと思いまして」
練習で、先生に教えてもらった通りに言った。
私も学年指導員のアドバイスを受けて、積極的にアピールしようとしていたのだった。




 私の発言を、面接官が頷きながら眺めていた。

今まであじわったことのない手応えだった。
素直に期待されていると感じて嬉しくなった。


(もしかしたらこのまま合格なんて……)
私は少しだけ有頂天になっていた。


「私はまだ免許を取得していませんが……」

でも、そう言った途端に態度が変わった。


「君は工場で働くような人間ではないと思うよ。だって君の体からは魚の匂いしかしない」

そう言われてドキッとなった。
高校で何時も言われていた言葉だったから。




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