無垢・Age17
 「あれっ、アンタ」
イベント広場の手前にあるクリスマスツリーの横で声を掛けてきた人がいた。
それは橘遥さんだった。


「ダメだよ社長この子は。ほらこの前話したでしょう。私の代わりに拉致された子よ」

社長と声を掛けられたのは、今まで私と一緒にいた人だった。


「社長!?」
私は驚きのあまりに大声を発していた。


「シッ!」
橘遥さんが、人差し指を唇に当てた。


「声がデカイ。社長は良いけど、私が見つかるとヤバいの」

私は橘遙さんの言葉を聞いて、慌てて手を口に持って行った。




 私はさっき、新宿駅西口のバス停前で声を掛けられた。
あの時、同じ歳位だと感じた人が社長だった。
私は本当に驚いてしまったのだった。


気付いたら口をポカーンと開けていた。


「ね、ビックリでしょう。これでもこの人三十路なのよ」


「味噌時? 味噌汁タイムですか?」


「あ、ごめん。三十代ってこと」


「え!?」

その返事に、私は驚きを隠せず目を丸くした。


「誰だって驚くわよ。こう言うのが、今流行りの美魔女って言うのよ」

美魔女……
テレビで見たことはあった。
でもその美しさは半端じゃなかった。
どう見ても二十代前半。
いや十代に見えた。


だから私は何の警戒もしないで一緒に此処まで来てしまったのだった。




 「市場調査員って知ってる?」

その言葉を聞いて、首を振った。


「色々と調査してレポートにまとめたりしているのよ。特に健康食品会社をね。其処から、色んなサプリメントを提供して貰ってアンケートなんかに答えることもあるの。あ、それはモニターって言うの。そう言えば解るかな?」


「この人、それでこの美貌を手に入れたのよ。ま、私にしてみたら化け物だけどね」
橘遥さんがそう言いながらウインクをした。
話半分に聞けってことらしい。


「あぁ、モニターなら……、確か母が県の行政モニターをしていました」
私はわざともっともらしい話をした。


「あら、お堅いこと」


「でしょ。だからこの子は誘いに乗らないよ」
橘遥さんはそう言って笑った。

あのウインクの意味はやはりそうだったのかと納得した。
橘遥さんは、本当は親切な人だったのだ。



橘遥さんが何故此処に居るのかは判らない。
でも社長はタレントをスカウトするためにあちこち回っていたようだった。



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