無垢・Age17
 「ダメだよ、こんなのじゃ」

社長が呆れたように言った。


「私は貴女が、モデルをやりたいって言ったから此処に誘ったのよ」


私から見たら何の落ち度のない彼女のどこがいけないと言うのだろうか?
私は首を傾げた。


「どんなコンポジなのか見たいって顔だね」
橘さんはそう言いながら、社長の手からそれを譲り受けて私に見せてくれた。


「格好いい!!」
私は思わず叫んでいた。


何故これがダメなのか解らない。
其処にあったのはグラビアアイドルより更に素敵なポーズで決めた写真だった。


「それがそもそもダメなのよ」

社長はまず私に向かって言った。


「みんなも聞いてね。主催者側はそんなの求めていないの。自社の製品をいかに上手く表現出来るかってことよ」


「社長が言いたいのはね。シンプルな着こなしで、どんな要求にも応えられる柔軟性かな?」


「そうその通り。これだけ決めてしまったら、イメージがかえって沸きにくいのよ」

そう言われるとそんな気になった。
でも、頭の中は疑問だらけだった。




 「それに、この格好だと目立つわよ。それとも痴漢されたいの?」

社長が言った。
私は素直にスタイル抜群の彼女を素敵だと思っていたのに、プロの目は厳しいらしい。

私には都会的なセンスで格好良く見えるのに……


(この人と比べたら私の服装なんて……)
そう思っていた。


「何故この人が此処に居るのか解る?」
社長の質問に女性は首を振った。

それは私も疑問だった。
私は何故此処に居るの?
何故社長に声を掛けられたの?

私は密かに聞き耳を立てた。




 「貴女からみたら、普通の支度でしょ? でも、清潔そうな雰囲気を出していると思わない?」

社長の問いに女性は頷いた。


「私って清潔そうに見えるのですか?」

私の問いに今度は社長が頷いた。


「まるで無垢そのものって感じよ」

誉められたのか、田舎者だと言われたのか解らずに私は戸惑っていた。


「勿論誉め言葉よ」

私の気持ちを察したように社長が言った。


「そんなー、ただのリクルートスーツです」




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