無垢・Age17
 「ママはやめて。私はアンタを産んだ訳ではない」


「解っているよ、ベビーシッターだって。でも私にとったらママはママだよ。だって何時も一緒だったでしょう」


「しゃ、社長。一体幾つなんですか?」

話に割って入るように私は言っていた。


「これ、女性に歳は聞かないの」
橘遥さんはそう言いながらも、こっそり耳打ちをした。


「え、ええっー!?」
私は更に驚きの声を上げた。

三十路だと聞いていた社長はアラフォーに限りなく近かったのだ。


「私の母とそんなに変わりないのに……」

私は、社長を美魔女と言った橘遥さんの言葉を思い出していた。


(凄い……私もこんな風に生きてみたい)
それは私に目覚めた小さな憧れだった。


私の母は四十代前半。
でも祖母の介護と子育てに追われやつれていた。
だから私は母に、少しでも楽をさせてやりたかたのだ。




 社長は私が落ち着くのを待ってから、美に関する情報を色々と話してくれた。

美しさの秘訣は朝の行動にあると言う。

それが一日を決めてしまうと社長は言った。


夜具の中で体を捩り徐々に目覚めさせてから、ベッドの縁に掴まりスロースクワットをする。
スロースクワットは身体にあまり負担をかけずにそれでいて芯に効くそうだ。

やり方は、ベッドの手摺に手を掛けてゆっくりと腰を屈ませる。
この時、頭は真っ直ぐにして膝で屈伸すること。

頭のてっぺんに手を置いて、上に引き上げるイメージにすれば体は前に屈まないと言う。


それに美容の一番の大敵は朝の食事を抜くことで、どんなに忙しくても必ず何かを身体に取り込むそうだ。

それは母にも良く言われていた。

少しでも寝ていたいのに容赦なく叩き起こされた後に……

そう思えば、私のこの恵まれた身体は母が作ってくれたようなものだ。

感謝しても足りないと思った。




 そうなのだ。
この体だから、社長は私に声を掛けてきたのだ。


今ぷにょ系のぽっちゃりアイドルブームだと聞く。

ぷに子とか言われているらしい。

確かに痩せすぎよりいいかも知れないけど。

ぷに子と呼ばれる条件は、身長百五十五センチなら体重は五十二キロから六十四キロの間だと言う。


私は標準体重を少し下回るくらいの、健康体だったのだ。

つまり、ぷに子にもスレンダーにもなれる体なのかも知れない。




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