無垢・Age17
 それでも怖い……
怖過ぎる。

橘遥さんが見せてくれたディスク。
もし満員電車の中であんな目にあわされたら、私はきっとパニック障害を起こすに決まっている。

知らなかった。
東京で普通に生活するにも勇気がいることを。
大都会ならではの恐怖。


満員電車内での痴漢やスリや通り魔的犯罪。

考えれば考えるほど恐ろしい。
それでも私は明日も会場に行って就活しなければならない。

持って帰ってしまった名札を返すためにも。

たったそれだけのために恐怖心と戦わなければならない。

過呼吸症候群と向かい合わなければならない。

橘遥さんの言ってた女性専用車両があればいいのだけど。

本当にあるかどうかは不馴れな私に判るはずはなかった。




 そんなことを考えながら歩いていると、何処か記憶に残る懐かしい場所に辿り着いた。
其処はアイツのマンションの近くだった。

あのハロウィンの日に、アイツのバイクに乗せてもらって見た景色だった。

私は知らないういにアイツの影を探していたのだ。




 私の手にある合鍵は、もう一人の兄貴が別れ際に渡してくれた物だった。


『此処で良かったら、何時でもおいで』
そう言ってくれた。

それでも躊躇していた。


(もしかしたら女の人が中にいたら?)

そんなことも考えていた。


――ガチャ!

その音にビクッとする。
慌ててドアノブに手をあてた。

相変わらず、整理された部屋。
モデルルームのようで生活感がまるでない。


それは女性っ気がまるでないと思えた。
それとも徹底的に掃除をさせているのだろうか?

私はその両極端な考えに戸惑っていた。




 ガラス張りのバスルームに入り、バスタブを磨いた後自動と書いたスイッチを押す。


『お湯張りをします』
機械的な音声。
それにも反応する。


気が付くと肩が上がっていた。
私は相当びくついていたようだ。
誰かに見られているような感覚は、あのガラス張りの入り口のせいなのかも知れない。


アイツが此処にいてくれたら、そんな思いが炸裂した時。

其処に幻影を見せたのだ。

アイツに惑わされていることに気付いているけど。

何故か嬉しい。
又このバスルームに入れたことが。
アイツのマンションに居られることが。




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