無垢・Age17
 徐々に湯がバスタブに貯まっていく。
その過程を楽しみながら、アイツの愛用していたシャンプーを手にした。

アイツの香りがする。
私は自分の行為に身悶えた。


愛してはいけない人を愛した私。
その重い十字架に押し潰されそうになる。
気が付くと私は泣いていた。

頬を伝わった涙が波紋のようにバスタブに広がった。


『お風呂が沸きました』
突然聞こえた音声に、私は思わずのけ反った。


「何やっているんだろ」
私は全身の写る鏡は向かって作り笑いをした。
でもその笑顔はひきつっていた。




 私の荷物は小さなボストンバック。
期間限定、冬休み就活。
そのつもりで送り出してくれた母親。
地元の港は冬のカニ漁が解禁になり賑わいを見せていた。
浜茹でしたカニが全国へ出荷される。

正月まで忙しくなる。
母は朝早くから働き詰めだった。

そんな中を私は出て来たのだ。


後ろめたさが、又涙になる。
親不孝を詫びながら、肩までお湯に浸った。


長湯したせいか、お湯が冷たくなっていた。


私は再び自動のボタンを押した。


『お湯はり致します』
モニターの声に私は慌てた。


「ヤバい! お湯が溢れる!!」
私は血相を変えて又そのボタンを押した。

モニターを良く見ると追い焚きの文字がある。
私は苦笑しながらそのボタンを押し、バスタブに体を沈めた。




 「ごめんなさい。連絡しないで突然来て」
私は其処に居ないアイツに誤った。


「相変わらず兄貴はきれい好きだね」
照れ隠しに言ってみる。
本当は認めたくなかったけど。

小さな鍵穴から中を覗いてみた。
アイツの部屋はベッド意外何もない。


「もしかしたら、引っ越しでもしたのかな?」

私は自分の言葉に愕然となる。

私はどうやら、アイツの二度と戻って来ないマンションへ来たのかもしれない。


「ねぇ、早く帰って来て。私を独りぼっちにしないでよ」

寂しさに耐えきれずくドアに向かって呟いた。


不安は大きな渦となり、あっという間私を飲み込んだ。

私は闇の中でアイツを求めてさ迷うしかないのかも知れない。




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