無垢・Age17
 私の肩にアイツの手が触れた。


「ギャーっ!!」


「ジン止めて!!」

悲鳴がこだまのように又襲ってくる。

その時私はさっきまでのアイツの体勢を思いだしていた。


(あれはキスでもしようとしていたの? だから周りがこんなに五月蝿いの)

そう思った瞬間。


「この子は何!!」


「アンタ何様のつもり!!」

様々な避難の声が私に浴びせられている事実に気付いた。

その途端に私は震え上がった。


「お騒がせして申し訳ございません。この子は私の妹です」

アイツはその場を取り繕うために私を妹だと言っている。

いや、初めから気付いていて……
だから鍵を渡してくれたのか?

そんな時、一人の女性が言った。


「こんな辛気臭い小娘の何処がいいの? 」
と――。




 魚臭いだけじゃなかった。
私は辛気臭かったんだ。


(美魔女社長は無垢だと言ってくれた。でもホスト遊びをする人にとったら私なんてただの田舎者なんだ)

私はひどく落ち込んでいた。


「ジンこんな子放っといて、さあ中に入りましょうよ?」

高そうな毛皮のコートを着た女性が私からアイツを引き離そうとしていた。


「申し訳ございません。妹は東京に不馴れで……」

アイツが私のことを又妹だと言っている。
私は何故かその事実を絵空事のように感じていた。


「妹? さっきのあの態度は何? あれが妹にすること?」

野次馬がワイワイ騒ぐ中で、妙にはっきり聞こえた言葉。

私はその一言一言を噛み砕きながら其処にいた。

其処にいることしか出来なかったのだ。




 不思議だった。
良く考えてみたら、私は本当は理解していたのだ。

私が東京に来た本当の訳を。

それは目の前にいるもう一人の兄貴に会うためだった。

そのために歌舞伎町を目指したのだ。

今その事実に触れる。


判っていた。
勿論全て承知していた。

でも気持ちを抑えることなど出来なかった。

私はますますアイツに堕ちていたのだ。


「何が妹よ!!
この子を良く見なさいよ。ジン、貴方が好きだって顔に書いてあるわ」

その言葉に私は震えた。




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