無垢・Age17
 「うん、あるよ」
私はそう言いながらボストンバックを開けて、中から青春十八切符を取り出した。


アイツはそれを受け取ると、改札口まで全速で走った。

五個のマスの一つに改札印を押してもらうためだった。




 青春十八切符。
言わずと知れた、学生向けの格安切符だ。

JR全線の鈍行や快速だけで利用出来るため、以前はその利用する殆どが卒業旅行などだった。

和気あいあい、仲間意識を高めるには絶好のアイテムだったのだ。

でも今では、ファミリーのお出掛けなどにも使用されるようになっている。

一枚で五回分使用出来る枠があり、料金は一万一千五百円。
一人でも大人数でも利用出来る。

あくまでも学生向けなので、春夏冬の休みに合わせて販売される。

今年の冬休み分は年末までの販売だった。


私が用意したのは西日本限定チケットで、普通のとは違うらしい。

改札口で念入りに確かめられたのを思い出した。




 私はアイツが戻って来るまでホームで待つことにして一旦下車した。

だって私のチケットはアイツが持って行ったから、もし出発でもされたら無賃乗車になるからだった。


私はこの線の途中の駅で下車する予定だった。

其処から田舎まで快速が出ているんだ。
きっと今日中に最寄り駅までたどり着けるだろう。

もし間に合わなかったらもう一日分あるからいい。
そう思っていた。

でも思いもかけないアイツの登場で、そんなのはどうでも良くなった。

そんなことより、発車時間までにアイツが戻って来れるかの方が心配だったんだ。




 息急きかけてアイツが戻って来る。
その姿に私は思わず涙ぐんだ。

アイツの視線と私の視線が絡み合いながら、徐々にその距離が縮まっていく。


その時ホームに発車の合図を知らせるベルが鳴り響いた。

私は一旦乗車して、ドアの真ん中にボストンバックを置いた。


こうすることで、ドアを閉めさせなくするんだ。
咄嗟の私の判断は、正解だったかのようにみえた。
でも本当はそんなことしなくても良かった。

ドアが全部閉まるまでには、アイツは私の目の前に居たのだ。


「良かったー。間に合ったー!!」
二人同時に言った。




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