無垢・Age17
 その朝。
私達は田舎に戻り、母の前に正座していた。
本当はアイツに自分の傍に居てくれと言われたからだった。

何が始まるのかも知らされないまま、私はその時をじっと待つしかなかったのだ。


「お嬢さんを私にください。結婚させてください」
アイツは両手を着いて突然言った。


「えっ!? 嘘……」
私は何が何だか判らず、そのままフリーズした。


「確かにアナタ達は結婚出来るけど」
母が思いがけないことを言う。


(結婚出来る? 私達は兄弟じゃなかったの? 私はあんなに苦しんでいたのに)

恨みを言いたい。
でもその前に私は興奮していて、何が何だか判らなくなっていた。

腸が煮え繰り返るような怒りと、何も手に付かなくなるような動揺。


心が、気持ちがアンバランスで今まで置かれてきた環境を恨む術も見失っていた。




 「良かったー!!」
アイツは突然言った。

私はその言葉に驚き、やっとの思いで自分を取り戻した。


「弟が言ったことがもし本当だったらと、ヒヤヒヤしていました」


アイツは私がイトコだと知っていた。
でも本当の妹だと言い張る弟の発言を気にしていたのだ。


兄貴はアイツの弟で、私はアイツと兄貴のイトコ。
何だかややこしい。


それでも嬉しい。
嬉し過ぎて涙になる。


アイツが虐めたから泣いてる訳じゃないけど、それでもやはりアイツのせいなのだ。




 「貴方のお父様には本当に良くして貰ったわ。あの子のために仕送りも……でも甘える訳にいかなくて」


「弟から聞きました。そのお金で大学に通えていることを。だから、本当は甘えてはいけないと言っていました」


「本当は私が全部用意しなくてはいけなかったのかに遂手を出してしまったの」

申し訳なさそうに言う母に、アイツは首を振った。




 私の父はやはり漁師で沖合いで死んでいた。
その船にはアイツの母親も乗船していた。


夫婦で漁をしていた父と母。
でも母は妊婦だった。
私の兄弟を身籠ったばかりだったのだ。

胎児が安定期に入るまでとの約束で、アイツの母親が代わりになっていたのだ。


父は長男で、家業の漁師を継いだ。
弟は自動車工場の技術者だった。
でも休みには家族総出の漁に出掛けるほど一家は本当に仲良しだったのだ。




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