無垢・Age17
 東京行きを諦め、祖母と田舎で暮らすことを決めた母。

同時に三人の子供達を面倒を見ることも念頭においていた。

でもそれでは余計な負担がかかる。
そう思ったアイツの父親は、小学校入学前のアイツを連れて田舎を離れたのだった。


母が一緒に行かなかった本当の訳は、愛していなかったからではない。

子供を望まれても叶えてやれないからだった。
だから別れを切り出したのだった。
だから結婚しなかったのだった。


小さかった兄貴は、私を本当の兄弟だと信じて……

でもアイツは私がイトコだと知っていたのだ。




 私は兄貴の言葉を思い出していた。


『知ってるか? あの人は俺達の兄弟なんだぞ』

兄貴は本当に知らなかったのだ。


私が二歳の時海難事故が起きた。
でも元々一緒に暮らしていたようなものだったらしい。

だから兄貴は本当の妹だと信じていたのだった。


私はそれを聞いても、そうなんだと思っていた。

だってアイツが初恋の人だなんて思いもしなかったんだから。


東京でアイツ暮らしていたマンション。
あのダイニングでふと垣間見た仕草にときめいた。
その時急によみがえってきたんだ。
田舎でアイツと暮らしたホームステイの日々が……


その笑顔が私の心を優しく包み込んだ日。
私はアイツに仄かな恋心を抱いた。

思い出と共に溢れ出した愛しさ。
でもそれは兄貴の発言で地獄へ向かう。

私は奈落の底でもがくしかなかったのだ。




 姑の看病のために田舎に残った母。

祖母は一進一退を繰り返し数年後に亡くなった。


余命数ヶ月と宣告された時、母はアイツを呼び寄せたのだった。


やはり私とアイツは血の繋がりはなっかた。

いや本当はあるのかもしれない。

ただ本当の兄弟ではなかったと言うことだった。


「だから結婚出来るよ」

アイツが私の手を取り、ゆっくり絡めて握り込む。
小さな私の指が大きなアイツの掌に包みまれた。


「実は……、みさとは俺の初恋の人だったんだ」
母の目を盗んで、アイツは私の耳元で囁いた。


「あのホームステイの時、俺は恥ずかしそうに俯くみさとに恋をしたんだ。どうしようもないくらいときめいたんだ」

アイツは目をキラキラさせながら私を見つめた。


ホームステイは、旦那の弟とよりを戻したなどと噂を立てられなくする配慮だった。



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