無垢・Age17
 ドキドキなんてもんじゃない。
息すら出来なくなる。
それはあの……
過呼吸症候群さえ追い抜きそうな勢いだった。


「このままでいさせて、みさとの柔らかい髪が好きだ」

アイツはそう言いながら私を優しく包み込んだ。





 今度は私の番だった。

私はアイツの髪に指を通して、地肌をマッサージするように洗い出した。


「あっ、其処……気持ちいい」
顔が近いせいか、吐息が妙にくすぐったい。

お互いの髪を洗い合うなんて、想像してもいなかった。

私達は泡だらけになって、愛の行為に酔っていた。


甘い優しい時間。
私は冬休みの最後の昼下がりを満喫していた。


アイツの腕が背後から私を抱く。
本当は待っていたくせに困った顔をする。


アイツがもっと優しくしてくれることを期待しながら……


そんな幸せを噛みしめていると、何故か涙になった。


「みさとの涙は綺麗だ。でももう泣かせたくない。だけど泣きたくなったら無理しないで泣いていいよ。俺はみさとの涙を拭うために遣わされたナイトだから」

アイツはそう言いながら、もっと強く抱き締めた。


「だから一人で抱え込まないで。辛いって字を思い出して。それを俺が変えてあげるから」

アイツはそう言った。




 アイツの寝室に初めて入って驚いた。

其処にはやはりベッドしかなかったんだ。


アイツは週刊誌の記事が出ることを知って、身辺整理をしたのだと言った。

父親の元か、田舎に帰るか悩んだそうだ。
そんな時に、私が現れたのだ。
だから迷わず追い掛けたと言ってくれた。




 アイツはベッドまで私をエスコートした。

それがあまりにも様になっていて、ホストだった事実が頭を掠めた。


(ジンか、神って呼ばれていたのよね)

私は少し戸惑いながら恐る恐る顔を上げた。

さっき、アイツは私のナイトだと言った。
でもそこにあったのは、想像さえ通り越した王子様の姿だった。


「王子様……」
思わず口に出る。


「だったらみさとはお姫様だな」
アイツは悪戯っぽく言うと、私の背後に回った。

優しく抱き締めてほしかった。


でもそのままベッドに押し倒される。
うつ伏せ状態で無抵抗にさせたアイツは、私の項に唇を押し付けた。


「あっ……」
心臓がちぎれそうに波打つ。

私はたまらずにシーツを掴んだ。




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