無垢・Age17
 長く深い一瞬が始まる予感。

そうなのだ。
今日は時間がない。
それでもこの一時に、アイツは自分の愛の全てを私に伝えようとしていた。


でも、だからこそ私は悪戯をする。
バスローブの下に洋服を着ていたのだ。

アイツの困った顔は見えない。
でもきっと目を輝かせているはずだ。
私はただ、アイツの指先を待っていた。


服が一枚ずつ剥がされていく。
その度に重なる肌が熱くなる。


項から背中にアイツはキスをする。
肌を滑る様な愛撫は私を震え立たせる。

姿が見えない分、私は感覚を研ぎ澄ます。

くすぐったいのは通り越して、快感に酔いしれる。


アイツの愛がやってくるまで、私は何度も身もだえた。

でも、アイツはそれを楽しんでいるようだった。

やはり、アイツは私の仕掛けた悪戯さえも楽しんでいたのだった。




 そして、ベッドの上にさっきの辛いと言う字を指で書き始めた。


「良いかい。この字に一を加えてごらん」

私はその横に辛と言う字を書いて上に一本棒を引いた。

それは……
幸と言う字だった。


「これって……」


「辛い時は支え合えば幸せになれる、ってことだよ。だからもっと頼っていいんだよ」

アイツは涙ぐみながらそう言った。


どちらともなく唇を求め合う。
そしてそれはもっと激しいキスに変わっていった。




 「みさとのお義母さんに幸せになってもらいたいな」
背中から回された手に力がこもる。
私はそっと振り向いた。

アイツは泣いていた。


「父は今、東南アジア諸国を回りながら技術者を育成しているんだ」


「え、東京じゃなかったのですか?」

そう……
私は東京にいるものだとばかり思っていた。


「心配すると思って、何も話さないで出向したんだよ。勿論俺も一緒に。でも俺は大学に行くために帰ってきたんだ」


「お義父様は凄い技術者だって聞きましたが、やはり……」


「ああ、だから一緒に行った俺はかなり優遇されていたんだ」


「あっ、もしかしたらさっきの寮って」


「うん、其処だった。どう言う訳か、男ばかりにもててさ……。だから本当にみさとが初体験なんだ」
アイツは頭を掻き掻きベッドの隅に座った。


何故アイツがそんなことを言い出したのかは解らない。
でもそれは思いやりの心で溢れていた。




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