無垢・Age17
 私の母とアイツの父。
二人がまだ愛し合っているなら……
きっとそんなことを想像しているのだと思った。


(私はいいよ。お母さんが幸せになるんだったら。だって私は母に楽をさせるために就活していたんだもん)




 私はきっと、ううん絶対に世界で一番幸せ者だ。
だって大好きな人が、飛びっきり優しい旦那様になってくれた。
私の匂いが気にならない職場に就職してくれた。
その上誰よりも、家族を大切に思ってくれている。
こんなに素晴らしい人生を過ごせる人間はそうはいないだろう。

何よりアイツは歌舞伎町のお堅いクラブのナンバーワンホストだったのだから、心だけじゃなくて顔もイケメンなのよね。


でも以前母が言っていた言葉を思い出した。


『イケメンって言うのは顔が綺麗なんじゃないの。イケてるメンズって略語だから』


(イケてるメンズ……か? うん。やっぱりアイツのことだ)
私はそう思った。




 「実はこれ……」

部屋を後にする時、アイツはそう言いながら一冊の週刊誌をバッグから取り出した。


「これは?」


「きっとみさとにとって大事な人なんじゃないのかなーって思ってさっき此処に来る途中で買った」

アイツはそう言いながら、指でページを捲った。

それは……
橘遥さんの記事だった。


「橘遥さんは、モデルになるんだってさ。ホラ、みさとが気にしていただろう?」

私はそんなアイツの声を聞きながら、その記事に目を移した。




 橘遥さんが、あの美魔女社長の元でモデルデビュー。

その話に触れて、私はもうこれ以上の幸せはないと思われるほどの絶頂にいた。


優しいキスと愛撫に満たされた体。

そして心配していた方の嬉しい便り。


タイトルは【アラサー橘遥。新たなる決意!!】
だった――。


私は早速読み始めた。


「ぷっ!!」
でも私は、其処に書かれているある一言で吹き出した。


「ガッ、ハハハ……」
そのお陰で笑いが止まらなくなった。


「どうした?
一体何が書いてあるんだ!?」

アイツはキョトンとしていた。

それは私にしか解らないことだった。


「いいの。橘遥さんの、ううん女性の秘密」

私はその場を繕った。



「あ、駄目だ。ガハハハハ……」
又、思い出して笑う。
アイツは困って、私の唇をキスで塞いだ。




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