無垢・Age17
 私は言葉を失った。
すぐに謝ろうと部屋を出て橘遥さんの姿を探した。

でも見つけることは出来なかった。

アイツは私の後を付いて来てくれた。
私はその優しさに涙ぐんでいた。


「社長がもうすぐアラフォーだって聞いてたの。だから記事読んで笑っちゃったんだ」
アイツの耳に内緒ごと。


「早とちりと慌てん棒も加わったか? これじゃ、俺の奥さん無敵になるばかりだな」
アイツはそう言って笑った。




 アイツは悄気ている私の手を引きながら、部屋に戻った。


(えっ!)
私は一瞬見間違えたかと思った。
橘遥さんは其処にいてコーヒーの準備をしていた。

さっき部屋を出たのは、コーヒーカップを持ちに行っただけだったのだ。


「驚かせないで」
思わず口から出たのは泣き言だった。
私は本当に慌てたのだ。大切な方を怒らせてしまったと思って……


「社長の特製コーヒーだから、飛びっきりのカップ……」
橘遥さんの声も上ずっていた。それは明らかに泣き声だった。


「ありがとうございます」
それだけ言うのがやっとだった。

橘遥さんの思い遣りが、注がれるコーヒーに漂っていたからだ。
私のために……
こんな私のために特別なカップ&ソーサーを準備してくれた。
その優しさに、私は又泣いていた。




 「ご無沙汰してます。あの時は本当にありがとうございました」

突然アイツが言った。
そして、社長をまじまじと見つめた。


「ジン……やはり貴方だったのね」


私はそんなアイツの行為に何故か不安になった。


(えっ!?)
その時私は社長に嫉妬していた。


『俺のことをジンと呼んだ人は大得意先なんだ。その人を怒らせたから……、本当は辞めてきた』
あの時アイツはそう言った。


『やはり私のせいじゃない』
私が申し訳なさそうにしゃべると――


『違う。俺のことをリークしたのはあの人だ。ホストには永久指名権ってのがあって、一度付いたらずっとそのホストを指名しなくてはいけないそうだ。あの人は前任者にスキャンダルをでっち上げた。そのお陰で俺がナンバーワンになれたんだ』

週刊誌を丸めてギュッと握りしめたんだ。


(ねえジン。社長はジンにとっても大事な人なの?)




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