無垢・Age17
 バレンタインの日。
アイツは又私を東京へと誘った。
お世話になった方々に挨拶回りをするためだった。

高校三年の生徒は期末テストや追試が済むと、自由登校になり、週一行くことになるんだ。

受験勉強や就職活動を円滑に進めるためらしい。

だから休暇を取った訳ではないのだ。

でも生徒には不評だ。
バレンタインデーに学校に行けないのは、恋する乙女にはキツ過ぎる試練だったのだ。


私の失言は、みんなの注目を浴びていた。


『ねえ、みさと。誰か好きな人いるんじゃない?』
入れ替わり立ち替わり、クラスメートが疑問をぶつけに来る。


(実は……)
何度も言いたくなった。
その度にポーカーフェイスを装う。
別に話していいことなのに、やはり気恥ずかしい。
私の匂いが好きだって言ってくれるアイツの話をすることが。




 調理実習で出来上がったガトーショコラとトリュフチョコは家に置いてある。
その日の内に帰るはずだったので。


「バレンタインデーって何の日だ?」
上り電車の中で突然アイツが聞いた。


「女の子が男の人にチョコをあげる日」
私も素直に答える。


「えー知らないの? 本当はね」
アイツが勝ち誇ったように言った。


「本当は知ってるよ。確か戦争で戦地に赴く兵士に結婚式を挙げさせたからバレンタイン牧師が処刑された日だって……」


私の返事に度肝を抜かれた格好になったアイツは、バツが悪そうに笑った。


「一体いつ調べたんだ? みさとに尊敬されたかったのに」
こんどはアイツが拗ねた。


「ジン。私成長した?」
まじまじとアイツを見つめると、照れくさそうに視線を外して頷いた。


「家庭科の宿題だったの。でもまさかの話だった。もっと素敵な謂れだと思っていたんだ」




 「日本人って不思議だよね。世界中の色々な風習を取り込んで商売にしてしまう。バレンタインデーはチョコレート屋の戦略だし、節分の丸かぶり寿司だってそうだろ?」

私は何が何だか解らなかったけど、一応頷いた。
だって、産まれた時からバレンタインデーはあったし……
ま、恵方巻きは最近だとは思うけどね。


「でも俺はそんな日本人が好きだ。」


(もしかしたら?)
アイツを見てそう思った。


「外国じゃ違うの? 女の子からじゃないの?」
私の言葉を聞いてアイツは頷いた。




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