無垢・Age17
 私は母の微笑みが気になっていた。


(考えてみたら、こんなに明るい母に初めて会えたような気がする)

そう思った時に疑問が晴れた。
母はアイツの父親を待ち続けていたのだろう。
だから思い出のあるあの場所から離れることが出来なかったのだと思った。


「お母さん、何年ぶりに逢えたの? 私何だかこの日を待っていた気がするの」


あの、冬休みの最終日。

アイツとこのマンションで愛しあった。


(何故アイツがそんなことを言い出したのかは解らない。でもそれは思いやりの心で溢れていた。私の母とアイツの父。二人がまだ愛し合っているなら……。きっとそんなことを想像しているのだと思った)

あの時感じたアイツの優しさ。
今又私の心を温めている。




 「親父、俺達に遠慮はいらない。先祖の墓は守るから、どうか二人で幸せなってほしい」
突然アイツが言った。

もしかしたら……
あんなに一生懸命港の仕事を覚えたのは、全てこの日のためだったのではないのだろうか?


先祖の墓を守ることは、故郷で自分達は暮らし続けると言うメッセージではないのだろうか?

アイツの言葉が心に染み込み私を突き動かした。


「私はいいよ。お母さんが幸せになるんだったら。だって私本当は、お母さんに楽をさせるために就活していたんだもん」


「お義母さんを幸せにしてやってくれないか。それが俺達の望みだ」

アイツはそう言うと、私の体を引き寄せて抱き締めた。


「ありがとうみさと」
アイツはそう言いながら泣いていた。




 田舎で頑張っていたのは、私の母とアイツの父を一緒にさせるためだった。

だから、アイツは彼処まで本気になれたんだ。

慣れない父子暮らしを見てきたアイツだからこそ、苦労したお父さんに幸せを贈りたかったのだ。


田舎に帰る列車の中で、二人は泣いていた。

幸せが涙になる。
アイツの優しさがそれを増長させる。
私はアイツの肩に頬を寄せながら、両親の幸せを祈っていた。

実は……
アイツは結婚届けに必要な書類の全てを準備していたのだ。

それはアイツからのサプライズプレゼントだった。




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