無垢・Age17
 「俺は生まれ育った此処が好きだ。でも今……」

アイツは何故か泣いていた。


アイツは経済学部に籍をおいていた。
だから日本の向かう先を論文にと模索していたようだ。


「気分転換に小説を読もうとしてあるサイトにアクセスしたら、減反政策を廃止する案があったんだ」


「えっ、それって何?」
私は思わず聞いていた。
私も放置耕作地を何とかしたいと思っていたのだ。


「なんでも安い輸入米を食べてみたら不味かったから、減反政策を廃止して米を輸出したらどうか。という物だった」




 アイツは東南アジアで暮らしていたからタイ米は当たり前だったそうだ。
でも日本の米に慣れて、食べなくなったそうだ。


「その時思ったんだ。その主婦が書き込んだように世界中に日本の米を輸出するべきだとね」

アイツはそう言いながら、その主婦の主張をノートに綴り始めた。




 【学生時代から小説を投稿してきた主婦です。

TPPが話題に上がり、物はためしに安い豪州米を購入してみました。

粘りもなく、不味い。
そこで思いましてた。
減反政策やめてどんどんお米を作って輸出したらどうかと。
農家は収入が減るでしょう。
減反政策の補助金が減る訳ですから。
でもその補助金は全部国民が納めた税金なのです。
減反することでお米を作らなくても収入になるシステムを考え直していただけますと嬉しいです。
日本のお米は美味しいから大丈夫です。
その時には、お米パンも一緒に紹介すると全世界に受け入れられると思います。】


そんな内容だったようだ。




 底引き網漁には、いくつかのやり方がある。

一隻と二隻で行うのが常だ。


二隻の場合、一定間隔を開け並んで曳船する方法。

一隻の場合は、トロールと呼ばれている方法などがある。

これはオッターボードと呼ばれている開口板を網の両端に設置して、袋状の網を海底に下ろして引き魚を追い込む漁だ。

網には海底を掻き回す爪のような物が幾つも取り付けられていて、それで砂を這う蟹や鮃などを捕らえる訳だ。


底引き網漁は沖合い底引き網漁と以西底引き網漁、遠洋底引き網漁がある。

此処では、沖合い底引き網漁が殆どだった。


漁協の組合員になると、漁業権に基づいて漁業が行える。

アイツは早速さその権利を取得した。


とりあえずは年末年始用の魚の調達からだった。
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