無垢・Age17
 午前五時。
アイツの乗った船が出港して行く。
それを見送った私は一人家に戻った。

冷やかされるのは得意じゃない。
それでもその中に本当は身をおきたがっている自分もいた。


アイツが帰って来るまで私は学校に行くことにしたのだ。

進路相談でお世話になった先生方に、地元で働くことになった経緯を報告するためだった。

勿論、結婚したことは内緒にしたままで……




 良い機会なので、アイツには聞けない卒業論文の書き方を先生に質問した。
何か手伝えることがあるかも知れないからだ。


今はパソコンで書くらしい。

表紙は一頁。
何年度卒業論文。
何年何月何日提出。
何々大学何々学部の他に学生番号も記す。


概要は一頁。
五百―六百文字程度で仕上げる。
先生方が卒業論文を閲覧するのはこの部分なので、ここだけはきちっと仕上げることだそうだ。


目次は一頁。
章立てと対象頁を書いておく。
第一章・はじめに。
第二章・準備。
第三章・本論。
第四章・考察。
第五章・結論。


本文は十頁以上。
一章のはじめにで、研究の背景などを述べることから始まり、最後の章で今後の展開等も述べておくことも重要のようだ。




 発表会に向けてのプレゼンテーション用のスライドも準備する。

卒業論文のまま書くのではなく、解り易く纏める。

箇条書きなどで工夫することが大事のようだ。


先生は首を傾げながらも丁寧に教えてくれた。
私は兄に頼まれたからと言い訳していたのだ。
でもその兄はまだ卒業論文が必要な時期ではない。
それでも、アイツは兄貴の兄貴なのだから……




 卒業論文の提出は概ね二月下旬から三月上旬のようだ。

だからまだまだ間に合うはずだと私は思っていた。


でも始めた漁師の仕事も手抜きなど許される訳がない。
それは常に危険と隣り合わせだからだ。

一つのミスが、乗組員全員の命を奪い兼ねないからだ。

アイツはそんな使命と戦っていたのだ。
初心者や素人だなんて言い訳出来ない。

海に出た以上、アイツの責任は重大なのだから。




 卒業論文を仕上げさえすれば卒業出来る。
私はそう思っていた。

それがどんなにアイツの負担になるかなんて考えもしないで。


それでもアイツは頑張っていた。
精一杯、誠心誠意に。




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