無垢・Age17
 まず以前から懸念していた竹林を見に行った。
実は卒業論文を発表する際に提出したスライドは此処で撮影させてもらった物だったのだ。


その時伐採した竹を貰いに行ったのだ。


「お陰で、今年は良い筍が採れそうだ」
その人はそう言ってくれた。


「みさとが聞いたら、きっと喜ぶな」

俺はつい、本音を漏らした。


「あっ、みさとにはまだ内緒にしておいてくれないか? 驚かしてやりたいんだ」


「何だか判らないけど面白ろそうだな。どうだ、打ち明けてくれないか? 確か免許が無かったんだな?」

竹林の持ち主が痛いところをつつく。


そう……
俺は自動二輪の免許しかない。

東京で暮らして行くには不便が無かったからだ。

でも田舎で暮らして行くことを念頭においていた割には考えが浅かったようだ。


「かぐや姫の絵本のような竹が、出来るだけ沢山欲しいんだ。キャンドルスタンドにしたいから」


「キャンドルスタンド? 火が着かないか?」

俺はそれを聞いてハッとした。

又してもそこまで考えが及ばなかったようだ。




 「このサプライズを思い付かせてくれたのはみさとだった」

おれは仕方なく、竹林の持ち主にその竹の使い道を話していた。


俺はみさとの発案で決まった卒業論文の中身の通りやってみたくなった。


港から見える小高い丘に荒れ放題の土地がある。
杭は打ってあるから誰かの持ち物なのだと思う。

俺はその場所がひどく気になっていたんだ。




 俺はこの場所に目を着けた。


其処の持ち主を調べて、無償で貸してもらえるように交渉した。

でも聞いて驚いた。

其処は撤廃した自動車工場がもて余している土地。
つまり親父の勤めている会社の所用物だったのだ。




 管理や維持費だけでも相当な金額がかかるらしいんだ。

だから放ったらかしになっていた訳だ。

早速親父に連絡して、有効活用してはどうかと提案してみたのだ。


親父はいつの間にか自動車工場の幹部になっていたのだ。
だから、二つ返事でオーケーしてくれたのだ。


でも喜んでくれたよ。


『俺達の故郷をよろしく頼む』
受話器の向こうでそう言われた。

俺達……って、親父とみさとの母親のことだと思った。


『勿論だよ。俺に任せてくれ』
あの日俺は思わずそう言っていたんだ。




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