坂口美里とガルダスト

「ダメ!!」


 私は思わず、声に出た。


「美里様?」


 爺やが不思議そうな声を上げる。


「何それ?万が一間に合わなかったどうするんだよ?それで、人が死んだら・・・それこそ、私たちがその人を見殺しにしたことになるんだよ?」


「仮定でモノを話すな、美里・・・そうならないように、最善の努力は尽くすと、カオリさんも言っただろう。」


 兄貴・・・どこまでもお前は頭でっかちだ!


「努力しても死んだら意味がないでしょ!?」


 例えば、この世界から『殺人は悪い』と言う概念がなくなったら、どうなると思う。


 昔、兄貴にそんな質問をされた。


 ガイネンって、意味が分からないといったら、『考え方』だという意味らしい。


 兄貴は言葉を続けた。


 もし、そうなったら、殺人は悪いことではなく、タダの行為になってしまうだろう。


 やりたかったからやった。


 やりたくなかったけど、みんながやっているからやった。


 これは、法律の問題ではない。そもそも法律にはそれほど人を縛る力はないのだ。


 私たちを縛っているのは、ただの道徳心。


 だからこそ、私たちは常に『やってはならないこと』の概念を持たなくてはいけない・・・。


 この話を聞いたとき、私は兄貴に向かって


『ガイネン・ガイネンってうるさいなぁ~。結局は、難しいこと言って私を困らせたいだけでしょ?』


 等と言ってしまったが、今なら良く分かる。


 私たちは、今、確実に「やってはいけないこと」をやっている。


 法律なんて関係あるものか?


 そもそも、私はこの国の法律なんて知らないんだ!!


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