坂口美里とガルダスト

「あ、ありがとうございます。」


 思わず、声が上ずった。


「さぁ、お荷物はこちらに。」


 トランクを開ける爺や。


 私は、そこにビールが詰め込まれたトートバックを入れる。


 ただし、蛍光灯だけは別だ。


 これだけは、手放すわけには行かない。絶対に。


「お嬢様の言ったとおりだ。絶対にそのワッカだけは手放さないのですね?」


 爺やが、柔和な顔で行ってくる。


 この老人が言うと、イヤミもイヤミに聞こえないから、不思議だ。


「ハイ。とっても大切なものですので・・・。」


 っていうか、これがなくなった日には、私も身元不明の死体の仲間入りに一直線だ。


 恐ろしい・・・あぁ、恐ろしい・・・。


「そうでいらっしゃいますか。それでは、行きましょう。」


 爺やに先導されるように、恐る恐るベンツの中に入る。


 今まで見たことないぐらいの広い車内に、向かい合っている座席シート。


 おそらく、本革使用・・・。


 これだけでも、緊張するというのに、向かい側には、当然といわんばかりに爺やが座る。


 ・・・・い、生きた心地がしない。


「おい、出せ。」


 この命令口調は、私にではなく、ベンツの運転手に向けてのもの。


 そりゃ、想像していたけど・・・運転手付きの車に乗るなんて、私にとっては人生最初の経験。


 興奮もするが、はやり、その分緊張もした。


 タクシーにだって、私は乗ったことないのに・・・。


 あらぶる心を必死に押さえつけながら、ベンツの中でおとなしく座りながら、窓の外を眺める。


 うわぁ~他の車が避けて通っている。


 ・・・・・すごいなぁ~。

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