坂口美里とガルダスト
にしょう
 
 季節は5月だというのに、お昼も回って太陽の日差しから暑さが身に染みる。


 閑静といえば、いえなくもない小さな住宅街。


 隆の自転車の荷台に乗って、私たちはそんな場所をすり抜ける。


 目の前に汗だくになってペダルをこぐ隆が見えるが、男がそれぐらいのことで根を上げられてもらっては困る。


「いい天気だねぇ~。」


 アスファルトから、熱気が漂う道路を自転車で移動しながら、隆に声をかける。


「え?あ、そうだな。」


 息を切らせながら、曖昧な返事を返す隆。


 まったく、情けないなぁ~。


「私ね、進路やっぱり、腹工にしようと思うんだ。」


「え、あ、そうか。」


 まったく、お前って男は・・・。


「聞いてる?」


「聞いているよ。腹工だろう?・・・え!腹工?」


 ようやく、言葉の意味を理解してペダルをこぐ足を止める隆。


 振り向いた顔の表情が、その驚き具合を言わすとも物語っている。


 私は思わず、衝撃で身体が前のめりになるが、何とか手に力を込めてバランスが崩れるのだけはこらえた。


「いいから、早く行こう。良いものなくなっちゃうよ。」


「え?あぁそうだな。」


 驚愕の表情はそのままに、隆は再び足を動かし始める。


「でもお前、腹工って腹月工業高校だろう?・・・どうして?」


 息を切らせながらの言葉。


 まぁ、聞き取るには何の苦労もしない。


「どうしてって言われても、私が学びたいのは、ロボット工学なわけだし・・・。」


「まさか、ガルダストを作りたいって言い出すわけじゃないよな?」


 冗談は休み休み言え。といわんばかりの隆の口調。


「そう、よく分かったね。」


 それに対して、何がおかしいのと、言わんばかりの声で答える。

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