かっこ仮。の世界。
身体を起こして、胡座を組むと、両手はそれぞれ膝の上で軽く拳を握る。
目を閉じて、腹筋を意識しながら鼻からゆっくり息を吸って、その倍の時間を掛けて口から緩やかに吐き出す。
思考は閉じる。
しかし、この思考を閉じる作業が曲者だった。
呼吸を意識すれば思考は閉じれないし、思考を閉じれば呼吸が乱れる。
「呼吸が乱れてる」
「吐き出すのが早い」
「思考が閉じてない」
少しでも乱れれば、容赦無く清明の声が指摘してくる。
そんなことが夕方、日暮れ前まで続いた頃だった。
清明は目を見張った。
突如、透理の気配は空気に溶け始めた。
透理を包んでいた気配がそれまでの騒々しく波立ったものから、静止した水面のようにぴんと、張り詰めたものに変わった。
これは、ひょっとすると逸材を拾ったかもしれない。
いくら霊力が高いといっても、この呼吸法を身に付けるには、少なくとも3日は掛かると思っていたのだか、どうやら透理はこの半日でコツを掴んだようだった。
清明は我知らず、微笑んだ。