ロング・ディスタンス
 そう思っていると、細谷が余計なお節介を焼いて、事務部の児島栞と食事をする場を設定してくれた。栞は間近で見てもやはりきれいだったが、太一は食事の席で彼女に酒をぶちまけるという失態をおかしてしまった。さすがにこれは嫌われたと思ったが、驚いたことに後日、栞からバーベキューの誘いを受けた。女というのは何を考えているかわからないものだ。
 もしかしたら脈があるのかもしれないと思い、栞をコーヒーショップへ誘ってみた。二人きりで話をしてみて受けた彼女の印象は、きれいで「普通に」人柄の好い女の子という感じだった。何かこう、百合花がアプローチしてきた時のような、熱い好意は感じられない。だが、学生時代の恋愛とは違う穏やかな男女関係というのもあるのかもしれない。栞は「友達から始めたい」と言っていた。

 ただ太一が願うことは、もう二度と恋人に裏切られたくないということだけだった。願わくば、栞が百合花のような物差しを隠し持つ女じゃないといい。
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