ロング・ディスタンス
 お互いの休日が重なる日、長濱に誘われるまま、遠い町にあるカフェレストランに行った。
 朝、彼は車で栞をアパートの前まで迎えにきてくれた。神坂の高級セダンとは正反対の、型の古いコンパクトカーに彼は乗っている。Tシャツの上にチェックのネルシャツを羽織り、ワークパンツにスニーカーを履いた姿は、病院の白衣姿よりも若い印象を与える。三十路といっても彼はまだまだ若いのだ。

 栞が助手席のドアを開けると、彼は満面の笑みを浮かべて彼女を出迎えてくれた。
「おはようございます。お迎えありがとうございます」
 彼女は礼を述べる。
「どういたしまして」
 助手席の座ると、車内には車特有の嫌な臭いがしないのに気づく。愛煙家の神坂の車はタバコの臭いがしみついていたものだったが。彼の車には、夜間の人目につかない時間帯に乗せてもらったことがある。
「児島さんを乗せるから、昨日の夜仕事が終わってから車の掃除をしたよ」
 長濱が言う。
「それはすみませんでした。昨日だって、帰りが遅かったでしょうに」
「いいんだよ。しばらく放ったらかしだったから、そろそろ掃除しなきゃいけなかったんだよ」
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