ロング・ディスタンス
 長濱の車は高速を飛ばす。
 今までは暗闇にまぎれていそいそと神坂の車に乗り込んでいたものだから、昼間の明るい時間に男性の車の助手席に乗るなんて、栞には新鮮な感覚だった。以前は、普通のカップルが当たり前にしていることができなかった。

 途中、サービスエリアの看板を見掛けた。
「トイレ休憩とか、大丈夫? 必要だったら言ってよね」
「いえ、まだ大丈夫です。先生も疲れたら休憩してください」
「俺も行きしなはまだ大丈夫かな。帰りは立ち寄るかもしれないけど」
「先生。コーヒーを持ってきましたので、のどが乾いたら言ってくださいね。ガムもありますから」
 栞は家で魔法瓶にホットコーヒーを詰めてきた。昔、父親がまだ生きていた頃、家族で遠くまで出かけた時のことを思い出して用意してみた。
「お。気が利くね。ありがとう」
 それから、栞は彼の求めに応じて、手ずからコーヒーの入ったカップをサイドブレーキ横のホルダーに入れた。
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