ロング・ディスタンス
「私、出不精だったんです。お休みの日はたいがい家でのんびりしてましたから。この前、伏木さんたちとバーベキューに行ったのも久しぶりのお出かけだったんですよ」
「ふーん」
 いい若い娘がそんなに地味な暮らしを送っているものなのかと長濱は思った。
「長濱先生は、休日は何をして過ごしているんですか」
「俺もたいしたことしてないな。なにしろ日々の研修で精一杯で、貴重な休日は休むだけだよ」
「そうなんですか。先生のことだから、たまに空手道場に行ってトレーニングでもしているのかと思っていましたよ」
「そういうのは、もう、してない」
 彼の目が少し翳ったことに栞は気づいた。やはり彼の左脚は、もうスポーツを続けられないほど傷んでしまったのだろうかと彼女は思った。
「まあ、体力づくりのために筋トレだけはやってるけどね」
「そうですか」
 そこで会話が少し途切れる。
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