ロング・ディスタンス
「児島さんにもそういう経験があったの?」
 長濱がたずねる。
「はい。そんなようなことがありました。具体的に何かっていうのは説明しづらいですけど」
「そうだねえ。俺の場合は、月並みだけど時間が問題を解決したのかな。それから、素晴らしい人たちとの出会いが俺を立ち直らせてくれたよね。リングドクターや理学療法士の先生のお陰で、医者になろうと思ったわけだしね。児島さんの方はもう自分の問題を乗り越えたのかな?」
 長濱の問いに栞は言葉を詰まらせた。その表情を見た彼は急いで言葉を継ぐ。
「何にせよ、時間が解決するよ。よく言うじゃないか。『どんなに長いトンネルでも出口のないトンネルはない』とか『明けない夜はない』ってさ。何か悩みがあるのか知らないけどさ、いつか何とかなるって。実際、この俺がそうだったんだからさ」
 彼は努めて明るい口調で言う。
「そうですね」
 彼女がわずかに笑みを浮かべて口を開く。
「私もそれを信じることにします」
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