ロング・ディスタンス
 栞はオフィスに戻る前に女子トイレに入った。自分の席に着く前に心の動揺を抑えなければならない。
 広い場所とはいえ神坂と同じ職場に勤めているというのは具合が悪い。これからも隙をついて彼女の前に彼が現れたら心臓に悪い。彼は自分の欲しいものに対してストレートに進む男だ。彼にとって彼女は都合のいいオモチャにすぎないのかもしれないが、手放すには惜しいオモチャなのかもしれない。彼がまだ彼女に執着しているとしたら、今後も復縁を迫ってくるだろう。正直、栞にだってまだ思いはあるから、その揺さぶりに耐えられる自信はあまりない。自分を強く保っていられるのにも限界がある。
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