ロング・ディスタンス
 あの夜、神坂はこの指輪を「婚約指輪の代わり」だと言って贈った。改めて考えてみると、「代わり」ってどういう意味だろうかと栞は訝る。「代わり」という言葉の響きに今更ながら引っ掛かった。

 やっぱりこれは本物の婚約指輪ではないのだ。あくまでも代替品。でも、代替品をもらったからといって、この先本物をもらえるかどうかはわからない。そんな保証はどこにもないのだ。

 所詮、この指輪は彼女と想い人の結婚に対して何の効力もない代物なのだ。神坂はそれをあたかも効力があるかのように見せかけ、愚かな栞はそれを信じ込もうとしていた。たちの悪いごっこ遊びだ。正気の沙汰ではない。

 だんだんトリックに気が付いてきた。
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