ロング・ディスタンス
 真実に目を向けるのは怖いことだ。

 今までの栞だったら、思考回路がご都合主義に走っていた。
 彼は忙しいのだ。彼には彼なりのちゃんとした理由があって、栞に会いにこられないのだ。
 神坂本人に代わって、そんな親切な理屈をいくつもひねり出すことができた。
 同時に、真実から目をそらすことで、彼女自身が傷つくことを回避することができた。

 でも今は違う。
 余りある時間が、彼女を様々な思考へ誘う。これまでは仕事に忙殺されていた疑問が、容赦なく彼女の頭の中に湧き上がってくる。

 そうした思考の波に洗われて、答がその姿を現した。
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