ロング・ディスタンス
 ここでやっと酔いが醒めた。

 これまでは神坂からの愛の保証を渇望していたが、これからは後悔と彼のような男を愛してしまった自分自身への嫌悪感にさいなまれることになる。
 進むも地獄、退くも地獄とはこのことか。それが不倫の代償か。


 栞はこの恋で多くのものを犠牲にした。
 親友との関係もぎくしゃくした。自分に好意を寄せる男性も傷つけた。そして何より若さという女にとって掛け替えのない宝を、愛する価値のない男に捧げてしまった。望まれない子を孕み、堕胎までしてしまった。
 
 愛憎のベクトルは幅の分だけ反転する。
 愛が深ければ深いほど、それと同じくらいの憎悪が湧き上がる。
 あのまま突き進んでいっても負の幅を広げていく一方だったので、結果的に終わって良かったのだ。今ですら失恋の後遺症は大きいが、さらにひどくなるよりはマシだ。

 本当に大切な存在は神坂などではなく、いつも変わらず栞のことを案じてくれる家族や友人だということに、やっと気が付いた。成美の言っていたとおり、彼の語る言葉とその行動は一致していなかった。
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