ロング・ディスタンス
「ねえ、栞。彼がどんな男で、あんたに対する扱いがどうであるかなんて、彼があんたの子を下ろさせた一件ではっきりわかるでしょう! そもそもあんたたちの関係は不倫なんだし、次にあんたがどうするべきかなんて火を見るよりも明らかじゃないの」
「別れろってこと? でも、私はまだ彼を愛しているのよ。あんな人でも、あんな関係でも、私には彼しかいないのよ! 自分だって、こんな感情がなければどんなにか楽だろうと思う。すっぱりと切り捨てることができたらどんなにいいだろうって思うけど、どうしてもそれができないのよ!」
「ねえ、栞。私、これから結婚するのよ。仮に、将来うちの旦那がよその女と浮気したとしたらって、考えただけでゾッとするわ。あんた、相手の奥さんの気持ちになって考えたことある? もし、奥さんが旦那とあんたの関係を知ったら、ショックで倒れちゃうよ」
「そりゃ、家庭のある人と付き合うのは悪いことだってわかってる。本来なら幸せな家庭を壊すべきではないわ。でもね、彼と奥さんの間にはもともと愛情なんてないのよ。二人はもはや書類上の夫婦で、子どもたちがいるから離婚できないのよ。奥さんは仕事が忙しいのを理由に、家事はホームヘルパー任せで、育児はベビーシッター任せなの。そんな母性の欠落した妻に愛情なんか感じないわ」
「彼らは共働きなのね。何をしているの」
「二人とも医者よ。彼の方はうちの病院で内科医をしていて、奥さんの方はよそで精神科医をしているわ」
 栞と彼は職場で出会ったというわけか。ありがちな話だ。
「歳はどれくらい?」
「二人とも四十代前半よ。彼は42。奥さんは一つか二つ下みたい」
 そんなに歳の離れた男と付き合っていたのか。
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