ロング・ディスタンス
 栞は目を見張った。
 しばらく膝の上にかごを置いて放心していた。

 どうしてあの人は自分なんかにこんなことをしてくれるのだろうかと思った。
 あんなことをしたのに。
 どう考えてもわからない。
 喫煙スペースで神坂と一緒にいるのを見られた時の、長濱の驚いた表情や肩を落として歩く姿が、今でも脳裏に焼き付いている。
 自分が逆の立場だったらショックだ。自分をふった異性のことなんかもう関わりたくないはずだ。
 そんな人間のために、わざわざ病院まで花を届けにくるなんて信じられない。
 
 でもうれしかった。
 彼の心遣いが心に沁みた。


 栞はその小さな花かごをベッドからよく見える位置に飾った。
 素朴なガーベラの花を見るたびに、彼の笑顔を思い浮かべた。
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