ロング・ディスタンス
「先生。お花、ありがとうございました」
 栞が礼を言う。
「ああ、あれね。どうってことないことだよ」
「私、先生にひどいことをしてしまったのに、お花なんかいただいて……」
「どうってことないさ。正直、君がお礼を言いにくるなんて意外だったよ。ふられたのに花なんか届けて、しつこい男だな、気持ち悪いなって思われるかもしれないと思ったから」
「そんな! 私、先生からお花をいただいてすごくうれしかったです」
「そうかい。それは良かった。ただ、君が重篤な病気にかかったというからちょっと心配しただけなんだ。別に、君とまたどうこうしたいとか、深い意味はないから安心してほしい」

 長濱は目を伏せ、口元にわずかな笑みを浮かべている。
 また少しの間が空いた。
 今しがた発せられた彼の言葉をどう受け止めていいのか、栞は考えあぐねた。
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