ロング・ディスタンス
「児島さんも早く元気になって、4月から職場に復帰できるといいね」
「はい。先生は来年度は?」
「俺はこの3月で研修が終わるから、今度は正規の外科医として別の病院に移るよ」
「そうですか。どちらに赴任するんですか」
「医療過疎地の離島にある病院に招かれているんだ。元々そういう約束で奨学金をもらって医大に通えたから、お礼奉公をしなきゃいけない」
「そうなんですか」
 急に、栞の胸に寂しさがこみ上げてくる。
「わざわざ花のお礼を言いにくるなんて律儀だね。今日は事務部に顔を出しにきたのかい?」
 長濱がたずねる。
「いいえ、事務部には寄っていません」
 よそへ行ったついでに彼の所へ寄ったわけではない。
「そうかい」
 そしてまた少し間が空いた。
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