ロング・ディスタンス
 ポンポンと頭を軽く触れられるのを栞は感じた。

「児島さんは辛い思いをしてきたんだね」
 長濱が優しい声で言う。
 そんなことを言われると、胸をぎゅっと締め付けられた気持ちになる。
「いいよ。島へ遊びにきたかったらおいでよ。ただし条件がある」
「条件?」
 栞が涙に濡れた顔を上げる。
 長濱はかすかな笑みを浮かべている。
「病気をちゃんと治してから来ること。わかったね?」
「は、はい」


 長濱はエレベーターホールまで栞を見送ってくれた。

 降下するエレベーターの中で、栞は緊張が冷めやらないような、でもホッとしたような、そんな気持ちでいた。
 彼は自分を拒絶しなかった。それだけでかなり安心できた。
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